カフェに伊藤若冲(いとう じゃくちゅう)の画集を見に行く。
書籍名は、「東日本大震災復興祈念 伊藤若冲展」
伊藤若冲は、江戸時代の画家、もともと大きな商家の長男で、父親が早くに亡くなり跡を継いだが、さっさと隠居して絵画に没頭した人で、極彩色の鶏の絵が有名です。
54ページ記載の一幅の隠元豆に鶏図(いんげんまめに、にわとりず)は、左上にインゲン豆が、からすうりのように垂れ下がっていて、インゲン豆の真下に鶏がこちらを真正面に見た、カメラ目線の絵。極彩色ではなく墨絵の鶏。
若冲の鶏は、横を向いていることが多いと思っていましたが、これは正面を向いていて、鶏が「何か?」っていう感じで、キョトンと、たたずんでいる。
その表情が思わず笑ってしまうほど、ユーモラス(笑)。
是非、画集を手に取って見て欲しい。
55ページの鶏図 一幅(にわとりず)の鶏の顔ったら、ありゃしない。
56ページの群鶏図 双幅(ぐんけいず)は、親の鶏2羽とひよこ2羽が描かれている。ひよこが愛らしい。2羽のひよこが、親鶏と一緒にいるが、一羽が駄々をこねているのか、両羽を広げ、首をもたげて目は細目になって一生懸命に自己主張してる。
隣にいる、もう一羽のひよこは、しらっとした目できょうだいのひよこを冷静に見ている。人間の子どもでも、こんな場面あるよね。
親鳥の様子も面白い、親鳥の片方は、子どものひよこが訴えているのに、あさっての方向を見て、そらとぼけていて、もう一羽は興味深そうに前のめりになって、体と顔を子どものひよこに向けている。
まるで、「ゲーム機のSwitch、買って〜!」と主張する子どもに対して、「きょうも良い天気ねー。」と言って取り合わない親のようでおかしい(笑)
そう言えば、かこさとしの絵本、からすのパンやさんにも、このひよこたちのような表情のカラスがいたような気がする。
73ページの大輪の菊の花、若冲の眼には菊がこんな風に映っていたのかしら。独特でとても面白い。菊の花を真上から撮影したかのよう。
それから、若冲の鯉の絵は、鯉のなんでも食べてしまう悪食さがよく表現されている。
百犬図(ひゃくけんず)は、いろんなポーズを取った子犬が死ぬほど描かれているんだけど、目が怖い。だいたいの子犬がこちらにカメラ目線なんだけど、ギョロ目で心に闇があるような子犬たち…。当時の若冲の心境に何かあったのか、それとも何かを揶揄しているのか…。
ひるがえって、若冲の描く大黒様や布袋様、伏見人形図の表情が柔らかくて良いなと思う。
伏見人形の由来は、諸説あるので割愛するが、京都の伏見で作られていた土人形のこと。
若冲の伏見人形図は、伏見騒動と言われる、当時の江戸幕府の老中配下の伏見奉行を務めていた、伏見奉行である小堀政方(こぼり まさみち)が、天明の飢饉によって人民が困窮しているのに、この奉行は藩の財政が行き詰まっていたことと、自分の浪費のために、伏見の町民から、総額11万両(いまのお金に換算すると、82億5千万円)にもおよぶ御用金(御用金とは、強制的に集められた国債みたいなもの)を、幕府から御用金の調達を命ぜられていないのに勝手に徴収するなどの悪政をおこなった。
そのため、伏見の町人代表7名が、江戸まで悪政を直訴し、小堀政方は、奉行職を罷免させられた。しかし、この7名は江戸の牢獄で取り調べ中に全員病死している。直訴しているため、本来なら処刑されてもおかしくはないが、彼らは病死後に無罪となった。幕府の判決もグッとくる。画集の巻末に、若冲は、この7名のことをなぞらえて伏見人形図を描いたであろう、と解説されていた。
いつの時代も、自分の命を賭してでも皆のため、正義のために立ち上がる人がいるのですね。ふらりと画集を見に来ただけなのに、胸打たれるひとときとなりました。
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